1. 発票制度の背景にある税収構造
前回のコラムでは「発票」の運用が中国税務当局にとって非常に重要であると述べました。今回は、その背景にある中国の税収構造と経済の関係性について見ていきます。
2. 税収データが映し出す経済の姿
2025年9月17日、中国財政部が発表した今年1〜8月の財政収支状況によれば、一般公共予算収入のうち税収は12兆1,085億元で、前年同期比0.3%の微増にとどまりました。その内訳では、増値税が4兆7,389億元と全体の3割以上を占め、税収の中核を担っています。一方、個人所得税は1兆547億元にとどまり、税収全体の1割未満にすぎません。この構成から、中国経済の特徴と今後の課題が読み取れます。
3. 投資主導を支える増値税の安定性
まず注目すべきは、圧倒的な比率を占める増値税です。日本や欧米と比較しても、中国では間接税への依存度が非常に高いのが特徴です。増値税は生産や流通の各段階で課税されるため、景気変動の影響を受けにくく、政府にとって安定した税源となっています。特に2000年代以降、中国政府は外資の誘致や製造業振興を目的に、増値税の還付・免税制度を充実させ、世界の「工場」としての立場を確立しました。今回の安定した増値税収も、こうした生産重視・投資主導型の経済構造が今も根強く残っていることを示しています。
4. 個人所得税の低さが示す消費の脆弱性
一方で、個人所得税の比率が低いことは、消費主導経済への移行が容易でないことを物語っています。中国は人口14億人を抱えていますが、高所得層は都市部に限定されており、全国的な消費購買力の底上げには至っていません。つまり「人口が多い=消費が大きい」という単純な構図は必ずしも当てはまりません。所得格差が税収構造にも色濃く反映されているのです。
5. 間接税中心体制が政策の選択肢を制限
このような税収の構造は、中国の経済政策にも大きく影響します。間接税中心の仕組みは、製造・輸出重視の産業政策には適していますが、内需の拡大や所得再分配という観点からは限界があります。今後、中国がより持続可能な成長を実現するには、賃金水準の向上や社会保障の充実などにより、国民が安心して消費できる環境を整える必要があります。
6. 財政構造の歪みとその修正課題
また、今回のデータでは、税収全体の伸びがわずか0.3%にとどまっている点も注目されます。これは景気減速や不動産市場の低迷が背景にあると考えられます。特に地方政府は、これまで土地譲渡収入に大きく依存してきましたが、不動産需要の減退により歳入が頭打ちになりつつあります。こうした財政構造の歪みを是正し、よりバランスのとれた税制へと移行することが求められています。
7. 税制改革が中国経済の未来を左右する
総じて、税収の内訳は中国経済の「体質」を如実に表しています。増値税偏重は投資主導型経済の名残を、個人所得税の低さは消費の弱さを示しています。今後は、外需依存や生産重視から脱却し、内需拡大と所得再分配の両立を図る「新しい税制モデル」が必要とされるでしょう。税制改革は単なる徴税方法の見直しにとどまらず、中国経済の方向性を左右する重要なテーマなのです。
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