従業員が「仕事のストレスでうつ病に…」~メンタルヘルスと労災認定の法的実務~

2025.09.25

1. はじめに:中国でのメンタルヘルス問題
今、中国でビジネスを展開する日系企業にとって、従業員のメンタルヘルス問題は決して他人事ではありません。対応を誤れば、深刻な労務トラブルに発展し、企業の評判や責任問題につながるリスクもはらんでいます。本コラムでは、特に「労災」の観点から、日系企業が今すぐ取り組むべき対応策を解説します。

2. 「心の病」は労災になる?中国の法律をチェック
まず気になるのが、「精神疾患は、中国で労災認定されるのか?」という点です。中国では、「精神疾患は労災に当たらない」と明記された規定はありません。理論上は労災として認定され得るものの、実務では認定のハードルが非常に高いのが実情です。精神疾患に限らず、労災と認められるには以下の3つの条件を満たす必要があります。

① 労働時間・労働場所内で精神的損害が発生していること
② 精神的損害と業務との間に因果関係があること
③ 精神疾患が遺伝や私生活の問題ではなく、業務に起因していること

なお、2025年8月から、PTSDが「職業病」のリストに追加されました。しかし、これは警察官や消防士、医療従事者など、特定の危険な職種に限られた話です。

3. 労災認定されるケース・されないケース
では、具体的にどのような点が労災認定の判断を分けるのでしょうか。ポイントを整理しました。

4. 企業が陥りがちな「落とし穴」と対策
労災認定の有無にかかわらず、企業は従業員のメンタルヘルス問題に真摯に向き合う責任があります。ここでは、よくある失敗例と、それを防ぐための対策を表にまとめました。

5. 日系企業のための具体的アクションプラン
労務トラブルを未然に防ぎ、従業員を守るための4つのアクションプランを提案します。

ルールを整備する

  • 休職・復職に関する規定を明確にしましょう。「どのような状態になったら休職できるのか」「復職の判断基準は何か」などを具体的に定めておくことが、いざという時の混乱を防ぎます。
  • 事故やハラスメントが発生した際の報告ルートと、記録・保管のプロセスをルール化しておきましょう。

管理職の意識を高める
管理職(特に日本人駐在員と現地中国人マネージャー)向けに、メンタルヘルスに関する研修を実施しましょう。部下の異変に早期に気づくためのサインや、適切な声かけの方法、ハラスメント防止の知識などを共有することが重要です。

初期対応マニュアルを作る
万が一、職場で暴力事件や事故が起きた際の対応手順を、あらかじめ決めておきましょう。こうしたマニュアルがあるだけで、現場の混乱を最小限に抑えられます。

プライバシー保護の徹底

  • 従業員の健康や病気に関する情報は、極めてデリケートな個人情報です。中国の個人情報保護法に基づき、情報の取り扱いには細心の注意を払いましょう。
  • 診断書の取得や社内での情報共有が必要な場合は、必ず本人から明確な同意を得ることが鉄則です。

6. 結論:信頼される組織づくりへ
中国で従業員の精神疾患が労災認定されるケースは限定的です。しかし、認定されるかどうかにかかわらず、企業には従業員の心身の健康と安全を守る責任があります。従業員との信頼関係を深め、持続的に成長する組織を作るために、今こそメンタルヘルス対策に本気で取り組んでみてはいかがでしょうか。

本記事の詳細については下記よりお気軽にお問い合せください。
inquiry@o-tenth.com

執筆:ONE TENTH
監修:外部協力弁護士 王祺