【中国労務】労働争議案件の法律適用に関する解釈(二)10条が定める無期転換ルール

2025.08.27

先日8月1日に最高人民法院が発表した新たな「労働争議案件の法律適用に関する解釈(二)」は、企業の人事労務管理に大きな影響を与える内容となっています(施行日: 2025年9月1日)。その一つは、有期労働契約から無期労働契約への切り替え、いわゆる「無期転換」に関するルールです。今回は、まず「無期転換」とは何かを簡単に押さえた上で、今回の10条が規定する3つの重要ポイント、そして企業が取るべき実務対応について解説します。

1. 「無期転換ルール」 ー 労働契約法14条
中国の労働契約法14条には、同じ従業員と2回続けて有期労働契約を結んだ場合において、期間満了時(※)に労働者から無期労働契約を求められたときは、使用者は無期労働契約を締結しなければならないというルールがあります。このルールの目的は、企業による使い捨てのような有期契約の乱用を防ぎ、労働者の雇用を安定させることにあります。しかし一方で、企業にとっては期間満了で終了させる選択肢が使えなくなることを意味します。そのため一部の企業では、

  • 契約期間を「延長」して、形式上は更新ではないとする
  • グループ会社間で契約の主体を変えて、通算回数のカウントを避ける

といった対応が取られることもありました。今回の司法解釈10条は、こうした抜け道を防ぐために設けられた規定です。

※期間満了時、使用者に「更新しない自由」があるか否かについて、かつて北京と上海で見解が分かれていました(北京は「ない」、上海は「ある」)。現在では北京・上海いずれにおいても「更新しない自由はない」という解釈が一般的となっていますが、他の地域については、運用に差異が生じる可能性があります。

2. 10条が示す「2回続けて有期労働契約を結んだ場合」と見なされる3つのケース
それでは、具体的にどのような場合が「2回続けて有期労働契約を結んだ場合」と見なされるのでしょうか?10条では、以下の3つのパターンが明確に定義されています。

① 「延長」でも1年以上なら更新とカウントされる
労働契約の満了後、協議により契約期間を「延長」した場合で、その延長期間が「累計1年以上」に達したときです。業務の引継ぎなどで数か月程度の短期延長を行うことは許容しつつも、延長期間が累計1年に及ぶ場合は、実質的に新たな有期契約を締結したものと同じと見なす、という考え方です。例えば、最初の期間満了時に1年間の延長に合意した場合、それは、「2回続けて有期労働契約を結んだ場合」に該当します。

② 「自動更新」の条項で更新されてもカウント対象になる
契約書に「申し出がない限り自動更新」と明記されており、実際に自動更新が行われた場合です。自動更新条項は手続きの簡素化に役立つ便利な仕組みですが、実際に更新されればそれも「2回続けて有期労働契約を結んだ場合」とカウントされます。

③ グループ会社間の契約切り替えでも通算される
労働者の職場や業務内容に変化がないまま、契約主体(使用者)がグループ内で変更された場合です。例えば、A社との契約が終わり、B社と新たな契約を結んだ場合でも、実態としてA社における雇用が継続していれば「2回続けて有期労働契約を結んだ場合」に該当します。形式的な契約切り替えでは、無期転換ルールの回避にはなりません。

3. 企業が取り組むべき3つの実務対応
新たな解釈によって、契約の形式ではなく、実態がより重視されるようになりました。企業には、以下のような対応が求められます。

① 契約更新の判断プロセスを明確に
契約のたびに更新の必要性を業務上の観点から検討しましょう。自動更新や安易な延長は避け、都度、明確な判断と記録を残すことが重要です。

② グループ会社間の人事異動を再確認
異動が実態として継続雇用になっていないか、契約回数リセットの意図がないかをチェックしましょう。

3. 最後に
今回の司法解釈10条は、形式上は別契約でも、実態として雇用が続いていれば無期転換の対象になるということを明確にしました。中国ビジネスにおける人事労務のリスク管理は、今後ますます「法令解釈の変化」への対応力が問われる分野となるでしょう。

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