近年、中国市場からの撤退を検討する外資系企業が増加しています。実際の撤退・清算手続きは非常に複雑で、法的・税務的な対応に加え、労務や政府対応など多岐にわたる準備が必要です。
本コラムでは、中国からの撤退をスムーズに進めるための「方法」「注意点」「撤退後の留意点」を解説します。
1. 撤退・清算の主な方法
1.1 会社の清算(正式な解散手続き)
法人を完全に閉鎖する場合は、清算という正式な解散手続きを取る必要があります。一般的な流れは以下のとおりです。
- 株主総会で清算決議
→ 清算委員会を設置し、手続きを開始
- 税務処理・債務整理
→ 税務局へ清算申告、未払い税金の精算
→ 取引先や銀行との債務整理
- 公告の掲載(45日間)
→ 官報に清算公告を出し、債権者に通知
- 資産の処分・決算報告
→ 工場・設備などの売却、最終決算の監査実施
- 登記の抹消
→ 工商行政管理局に申請し、法人登記を正式に抹消
このプロセスには通常6~12か月程度かかります。
1.2 株式譲渡・M&Aによる撤退
法人自体は残しつつ、第三者に株式を譲渡することで撤退する方法です。清算よりも短期間で手続きを終える可能性がありますが、信頼できる買い手を見つけることが前提です。
- 買い手候補との交渉
- 外資規制に基づく政府の許認可取得
- 契約締結後、工商局で登記変更
買い手の信用調査(デューデリジェンス)を十分に行うことが不可欠です。
1.3 事業譲渡(資産売却)
法人はそのまま残しつつ、資産(工場・設備など)だけを売却する方法です。ただし、従業員の処遇や契約整理が課題となります。
2. 清算時の主な注意点
2.1 税務リスクの回避
- 未納税金の有無確認(清算審査時に厳しくチェックされます)
- 増値税(VAT)や企業所得税などの精算
- 税務書類の適切な保管
特に、中国では税務局の事後調査が厳しく、清算時の「税務完了証明」取得が非常に重要です。
2.2 労務トラブルの防止
- 経済補償金の適正な支払い(中国労働契約法に基づく)
- 労働争議(訴訟)に発展しないよう、丁寧な対応
- 労働局への報告と解雇通知の適正手続き
従業員対応を誤ると、清算の遅延や企業イメージの低下にもつながりかねません。
2.3 債権・債務の整理
- 取引先との契約解除
- 未払い債務や違約金リスクへの対応
- 銀行借入金の処理(担保の解除も忘れずに)
2.4 地方政府との連携
中国では地方政府の影響力が強く、協力的な姿勢が撤退手続きをスムーズに進める鍵となります。規制や通達の変更にも注意が必要です。
3. 撤退後も重要な「アフターケア」
撤退後も、中国との関係は完全には切れません。以下のような点に引き続き注意が必要です。
3.1 過去の税務・契約リスクの継続
中国税務局は過去の取引を遡って調査する権限があります。税務問題が発覚した場合、元経営者に責任が及ぶリスクもあるため、撤退時に全ての税務処理を完了させておくことが重要です。
3.2 再進出の可能性に備える
将来的に中国市場への再進出を検討する企業にとっては、「円満な撤退」が重要です。労務・税務トラブルや政府との軋轢を残さない対応が、次の展開に影響します。
3.3 知的財産・ブランドの管理
撤退後、商標や特許などの知的財産が第三者に悪用されるリスクがあります。管理の継続を忘れずに行いましょう。
3.4 現地パートナーとの関係維持
撤退後も、現地のサプライヤーや取引先と一定の関係を保つことで、再進出時に有利に働く場合があります。ビジネス上の「橋」を完全に断ち切らないことが大切です。
3.5 関係者への説明と配慮
撤退に伴う混乱を防ぐため、取引先・従業員・政府機関などへの誠実な説明と対応が求められます。透明性ある対応を心がけ、法的トラブルを未然に防ぐことが大切です。
4. まとめ
中国からの撤退・清算は、単なる手続きではなく、多くの関係者との調整や専門的対応が求められる「プロジェクト型業務」です。法律対応だけでなく、税務・会計・労務の整理、さらには撤退後のリスク管理まで、多角的な視点での戦略的な対応が不可欠です。
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