中国で事業を行う企業にとって、「発票」の理解と適正な利用は非常に重要です。発票は日本の請求書や領収書に似ていますが、その性格はより厳格であり、税務当局の管理下にある公式な取引証憑です。発票制度を正しく理解しないまま事業を進めると、思わぬ税務リスクやコンプライアンス違反に直面する可能性があります。特に近年では、実態を伴わない発票の利用が散見されており、企業はより一層の注意が求められます。本稿では、中国における発票制度の概要、虚偽の発票利用が引き起こす問題、さらに不正行為に対する処罰について整理します。
1. 中国の発票制度の概要
中国の発票制度は、国家税務総局が監督する仕組みであり、発票は単なる取引証明書ではなく、取引の真実性を証明し、売上・仕入を通じた税収を把握するための「税務管理ツール」とされています。
発票には、「増値税専用発票」「増値税普通発票」「電子発票」などの種類があり、取引内容や当事者の資格に応じて適切に使い分ける必要があります。特に「増値税専用発票」は、仕入れ側が仕入税額控除を受けるための根拠資料となるため、発行・取得の正確性が極めて重要です。
また、発票は税務システムとリアルタイムで連携されており、税務当局が発行状況を常に把握できる体制が整っています。近年は電子発票の普及が進み、紙の管理コストが削減される一方で、不正発票の検出能力も大きく向上しています。つまり、発票の取得・保存・利用は、企業にとって税務コンプライアンスの中核的要素と言えるのです。
2. 実態を伴わない発票利用の問題点
発票は、本来実際の取引に基づいて発行されるべきものですが、中国では「虚開発票(実態を伴わない発票)」の利用が過去から問題視されてきました。代表的な不正利用の例として、以下のようなケースが挙げられます。
- 売上を実際より多く見せかける水増し発票
- 存在しない取引を装う架空発票
- 経費を不正に計上するための偽造発票
これらの背景には、以下のような動機があると考えられます。
- 税負担を軽減するために、仕入税額控除を不正に受けたい
- 資金繰りや決算数値の調整目的で売上を操作したい
- 公費精算や補助金申請のための根拠資料を取り繕いたい
加えて、ビジネススキームに問題があることで、意図せず不正利用に該当する場合もあります。
【事例】
日本企業は、中国代理店Aに商品を販売する計画に基づき、当初、中国現法を通じて、代理店Aに発票を発行しました。しかし、その後の事情変更により、商品はAに納品されることなく、日本から別の中国代理店Bに直接送られました。この場合、現法は商品の受け渡しや契約に一切関与していないにもかかわらず、形式的に発票のみがA宛に発行されたことになります。このように、実際の取引や物流に関与していない現法が発票を発行することは、取引実態と発票内容の齟齬を生じさせ、中国税法上は「発票の不正利用(虚開発票)」に該当する可能性があり、行政処罰の対象となります。
3. 発票不正利用に対する処罰
中国では発票の不正利用に対して、行政的・刑事的な厳罰が科されます。主な処罰は以下のとおりです。
- 行政処罰
不正発票が発覚すると、追加納税、過少申告加算税、重加算税が課されます。さらに、罰金が科され、今後の発票発行についても税務局から厳しい監視を受けることになり、ビジネス全体に支障が生じます。
- 刑事処罰
「発票管理弁法」や「中国刑法」により、虚偽発票の発行・購入・利用は重大な犯罪とされます。悪質な場合は、関係者に対し懲役刑が科されることもあり、実際に経営者や財務責任者が実刑判決を受けた事例も報告されています。
- 社会的制裁
税務当局は不正を行った企業を「重大違法失信企業リスト」に登録し、公表します。その結果、入札資格の剝奪、銀行融資の制限、政府補助金の停止など、事業継続に重大な影響が生じることになります。
これらの処罰は「摘発された場合のみ」の話ではありません。発票の電子化により、税務当局はAIなどを活用して発票データを分析し、不正の兆候を自動的に検出しています。過去のように「見つからなければ大丈夫」という状況は存在しません。
4. まとめ
中国において発票は、単なる会計書類ではなく、税務コンプライアンスの要です。取引の実態に即して発票を正しく発行・管理することは、企業の持続的な成長と社会的信用の確保につながります。一方で、実務の現場では「取引を円滑に進めるため」といった理由で、意図せず発票の不適切な取り扱いに陥ってしまうケースも少なくありません。こうしたリスクを未然に防ぐためには、発票管理体制の整備や、関係部門へのルール周知、社内監査などを通じた日常的なコンプライアンス意識の醸成が不可欠です。
弊社には、中国ビジネスに精通した財務・税務・会計の専門家が在籍しております。発票の取り扱いや税務処理に関して、ご不安な点や制度上のご不明点がある場合は、お気軽にご相談ください。
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