1. 司法解釈により明確化された社会保険の納付義務
2025年8月1日、中国最高人民法院は、『労働争議案件の法律適用に関する解釈(二)』を発表しました。この司法解釈では、社会保険(社保)の納付義務について以下の3つの重要なポイントが明確に示されています。
① 労使間の合意があっても社保未納は無効
中国では、法律で企業が労働者のために社保を納付する義務を定めており、労使間で「社保を支払わない」という合意があったとしても無効と解されてきました。しかし実務では、書面や口頭での合意を根拠に、未納状態が黙認されるケースも見られました。今回の司法解釈は、このような合意や承諾について無効とし、社保納付義務を一層明確にしました。
② 社保未納を理由に労働者は契約解除・経済補償金の請求が可能
企業が社保を未納としている場合、労働者はこれを理由に労働契約を一方的に解除することでき、同時に企業に対して経済補償金の請求も可能であることが明記されました。「社保分を現金で支払っていた」という事実があったとしても、この主張は、社保納付の代替とは認められません。実際に、30名の従業員に社保を提供していなかった企業が、300万元を超える未納分の追納と経済補償金の支払いを命じられた事例も報告されています。
③ 社保を事後的に追納した場合、企業は補償金の返還請求が可能
労働者が社保未納を理由に労働契約を解除した後、企業が未納分の社保を追納した場合、既に労働者に支払った社保相当の補償金(=労使間の合意に基づいて「社保分を現金で支払っていた」場合など)について、その返還を労働者に請求できることが明記されました。ただし、この返還請求を行うためには、企業が労働者に支払った補償金の性質を合意書などの書面で証明できる必要があると考えられます。
2. 2025年8月は自発的な是正の猶予期間
司法解釈の施行日は、2025年9月1日です。8月は企業が自主的に社保未納を是正する猶予期間になります。中国の労働保障部門は企業に対して、労働契約書、賃金明細、社保納付記録が一致しているかの再確認を求めています。
3. 最後に
一般的に日系企業はコンプライアンス意識が高く、社保未納のケースは少ないとされていますが、中国の社保制度への理解不足から一部未納が生じている場合もあります。今回の司法解釈を機に、以下の対応を推奨します。
- 自社の社保納付状況の再点検(納付開始時期、社保料計算方法など)
- 労働契約書、賃金明細、社保納付記録の整合性チェック
- 社保未納に代わる補償を支払っている場合、その内容を書面化(返還請求の根拠を整備)
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