中国に進出している日系企業にとって、現地法人における従業員の不正行為は、ブランド毀損や財務への悪影響にとどまらず、日本本社の経営責任、社会的信用にも関わる重大なリスクです。特に昨今では、現地化の進行やコロナ禍による本社の関与縮小などを背景に、内部統制が弱体化し、管理の目が届きにくくなっている傾向があります。本コラムでは、不正の実態と背景を分析し、日系企業が取りうる対応策を整理します。
1. 中国現地法人で頻発する不正の実態と背景
1.1 不正の主な類型と傾向
中国現地法人において発生する不正には、以下の類型が多く見られます。
- 汚職型:取引先と癒着し、キックバックを受け取るなどの収賄行為
- 資産流用型:経費の水増し、会社資産の私的流用、在庫・現金の横領、さらに、類似特許を外部で無断登録する知財流出もある
- 財務不正型:売上や費用の操作、架空計上、損失の隠蔽
多くの不正は、内部通報や外部監査人の指摘によって発覚しますが、その時点では既に損害が拡大しているケースが少なくありません。そのため、予防的なチェックが不可欠となります。
1.2 不正が生じる主な要因
不正が発生する主な要因は以下のとおりです。
- 内部統制の弱体化:現地化に伴い、権限が一部幹部に集中 – 現地法人の管理層に日本人駐在員がいない
- 本社との連携不全:言語や文化の壁に加え、物理的距離が影響
- コンプライアンス意識の低下:社内規程の未整備、教育や研修が不十分
2. 不正発覚時の対応フローと調査上の留意点
不正の兆候が見えた段階で迅速に以下の対応を取る必要があります。
- 調査体制の構築:本社の法務・管理部門を中心に、外部の弁護士や会計士を招集
- 証拠保全:関係データ・資料の保存、PCや携帯端末のコピーなどを実施
- WeChatの調査:WeChatは個人用と企業用がある。個人用はその記録を調査することが困難であるが、企業用はサーバーが会社にあるため、調査可能。会社ルール上、企業用WeChatを利用し、仕事の連絡は全て企業用WeChatで行うことを徹底させる
- 調査報告と対応方針:経営層への報告後、懲戒・損害賠償・刑事対応の可否を検討
- 再発防止策の実施:社内規程の見直し、教育の強化、内部監査の実施
3. 日系企業が取るべき具体的アクションプラン(予防策)
不正を未然に防ぐために、次のようなアクションプランの整備が効果的です。
- 本社統括部署の明確化:中国子会社の状況をモニタリングし、指導・管理を継続的に実施
- 駐在員の適正配置:中国語や現地事情に通じた人材を任命し、日常的な情報連携を図る
- 内部統制と職務分掌の整備:支出ルールや権限規程を明文化し、社内規則、労働契約、就業規則も整備(不正をした従業員を退職させ、損害賠償を請求できるようにする)
- 対応マニュアルの整備:調査の流れ、不正行為の処理、外部専門家との連携などを明確化
- コンプライアンス教育の実施:中国語による事例ベースの研修を定期実施
- ジョブ・ローテーション(職務交代)の導入:業務の属人化やブラックボックス化を防ぎ、不正の「発見」と「抑止」の両面で効果が期待できる
- 匿名通報制度の整備:社内外の通報窓口を設置し、情報の早期収集を可能にする
- 高リスク部門の定期監査:営業、調達、経理などを対象に、年1回以上の監査を実施
※不正の発覚については、監査のほか、特に人事異動や退職(従業員の解雇)時の社内メールでの匿名告発も多く見られます。意図しない形で不正が外部に流出するのを防ぐために、日頃の良好な関係維持はもちろんのこと、人事決定後の従業員対応も慎重にする必要があります。
4. まとめ:不正リスク管理の鍵
中国現地法人における不正リスク対策は、「不正の起きにくい管理体制」を構築することが求められます。平時からの備え(予防策)が企業の持続的なガバナンス確立に繋がります。また、不正発覚時に、裁判対応や証拠収集、賠償交渉、和解書の起案、不祥事の秘密保持などについて迅速なサポートを受けられるよう、外部専門家との連携も重要です。
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